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2007年1月20日 (土)

詩作品

野良猫の風太

                 田川紀久雄

ホームレスの立ち去ったあとに一匹の猫が住んでいる

このまえ仔猫がいたと思っていたが

その仔猫の姿がみえない

母猫といっても二歳になるかならに猫だ

高架貨物線の下に

布団が積み重ねられてある

その脇で寝起きをしている

私の家から浜川崎駅にいく途中で見かけた猫

だれも餌を運んでくる人はいない

人もほとんど通らない

JFEの通用門までほんの僅かな距離だ

その猫の名を風太くんと名付けた

それはテレビで話題になった風太君に似ていたからだ

朝餌を持っていくと猫はまだ眠っている

人にはなつかない

気配を感じただけでも逃げてしまう

浜川崎にいた猫は

小屋を

取り壊されてから

時々しか現れなくなった

それでも乗客の幾人かは

餌を持ってくる

人見知りをしないぶん

愛されているのだろう

女はその猫のことを小説にした

川崎に越してきてから唯一の友達といえる

誰も話す相手がいなかった

女にとっては初めて住む町

そして今度は風太くんを友達にしようとこころみるのだが

野良猫の風太はなかなかこちらに近づいてこあに

二階の部屋には連れてこれない

せめて食料だけでは運ぶことにした

野良猫が生きるということは並大抵のことではない

誰かが保健所に訴えれば連れていかれて処分されてしまう

私たちの生活費も二人で一日千円以内

贅沢な生活は出来ない

でも風太くんにやる餌代ぐらいはなんとかなる

風太くんの元気な姿が

私たちを励ましてくれる

お互いに頑張ろうというささいな優しさの中の

生きる喜びをみいだせる

明日の生活が見えてこない

風太くんも明日どうなるのかわからない

高架貨物線の近くには産業道路が通っている

ときどき車に轢かれた生き物を見かける

お互いに貧しいものどうしが

今日精一杯生きられればそれで有難い

ときたま風太くんの姿が見ないときがある

そんな時は心配で

あいつどこにいるのかと探しまわったりする

猫は隠れるのが上手である

人には見付からない

猫だけの幸せな場所があるのかもしれない

ホームレスの立ち去ったあとに一匹の猫が住んでいる

その猫は私たちより

生きることにかけては数倍も巧みである

それなのに

餌はあるのだろうかと心配する

そんな一日一日が

今の私たちにとって生きる楽しみになっている

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